夏こそ行きたい“ぬる湯”の温泉
新潟県・栃尾又温泉「自在館」
温泉
2023/07/07
温泉は、生きている地球の力が詰まった恵みの泉。四季のある美しい日本を訪ねて、その土地ならではの温泉に入り、身も心もいやされる旅へ。“カリスマ温泉ソムリエ”石井宏子さんが、いまこそ出かけたい旬の湯宿をご紹介します。

- 取材・文/石井宏子(旅行作家・温泉ビューティ研究家)

- 新潟県
栃尾又(とちおまた)温泉には独特の入浴文化があります。人の体温ほどの“ぬる湯”に1時間ほど入ります。湯船のふち石に頭をのせて、首まですっぽりと湯に入りじっと自分の世界に浸る。これが無限の宇宙をただようかのように心地よいのです。温泉の流れる音だけが響くこの時間が、今回の温泉の最大の特徴です。蒸し暑い日が続き、夜も寝苦しくてぐったり。そんなときこそおすすめしたいぬる湯。体温と同じくらいの温泉は長湯ができて、とことん脱力できます。コリや緊張がゆるんで、心地よい眠りに誘われます。
3つの大浴場とラジウム温泉で体を整える

約400年前から続く温泉宿「自在館(じざいかん)」の湯守・星 宗兵(そうへい)さんは26代目。自在館には「霊泉の湯」と呼ばれる大浴場が3つあり、1日ごとに男女入れ替え制で利用できます。窓から見える森の緑がすがすがしい「おくの湯」(冒頭写真)は、温泉に浸かりながら読書をしている人も多く、明るい雰囲気。「うえの湯」は、昭和期に国民保養温泉地となりクアハウス(温泉保養施設)として利用していた広い空間を使った浴場。そして最も歴史が古いのが「したの湯」(上写真)です。したの湯へは、源泉が湧出する渓流近くの湯小屋まで階段を下っていきます。35.4℃の源泉をそのままかけ流しで投入するぬる湯に身をゆだね、目を閉じて脱力していると、次第に自分の体と湯の境目がわからなくなってきて、まるで宇宙空間を浮遊しているような夢心地になります。少し寒さを感じたら、加温した湯船で温まり、また、ぬる湯へ入るという、温冷交代浴を繰り返して気が付けば1時間。ぽかぽかになってじんわりといい汗がにじんできます。泉質は単純放射能泉pH8.6のアルカリ性。温泉と大気中のラドンが細胞を活性化させて、新陳代謝をサポートするといわれるラジウム温泉です。無色透明な温泉ですが、歴史ある湯治場の名湯の力をしみじみと感じます。

栃尾又温泉に入ると、とにかく眠くなります。理由はぬる湯の効果です。体温と同じくらいの温泉にのんびり浸かることで副交感神経が優位となり、心身が休眠モードになるのです。今回泊まったのは、トイレ付き和室ベッドルーム。檜のベッドフレームと安眠にこだわって選んだという寝具のおかげもあり、朝まで記憶がないほどぐっすり眠れました。
毎日食べてもおいしい湯治ごはん

自在館の献立は毎日変わります。心身の湯治なら、基本は一汁四菜。これにイワナの塩焼きや鴨鍋などを追加して楽しむ人もいます。おかずは地元の野菜がたっぷり。おかみや地元のお母さんたちが、肉や魚などもバランスよく組み合わせて手作りしていて、とてもおいしい。加えて、この地域に来ないと飲めない地酒の「緑川」をちびちびと飲んで心の栄養に。よきところで、つやつやの魚沼産コシヒカリのごはんと具だくさんのお汁、最後にちょこっとデザートを……。これなら何日でも泊まれそう。連泊で滞在する人が多いのもうなずけます。
館内には、無料の貸切温泉も3つあり、こちらは宿独自の自家源泉(単純弱放射能泉pH7.9<弱アルカリ性>)を39~42℃ほどに加温してかけ流しています。到着時に好きな時間をひと枠予約できます。朝の時間を優雅に過ごしたくて、露天風呂「うけづの湯」をひとり占めしたところ、熱めの湯ですっきりと体が目覚めていきました。ときおり「キョロロロロー」と、アカショウビンの澄んだ声が、渓流の水音とともに聞こえてきました。

朝食もバランスがよく、おかずは毎日変わりますが、名物の「ラジウム納豆」は毎日食べることができます。新潟県内の契約農家の大豆に栃尾又温泉の湯をたっぷりすわせて作られた納豆で、大粒で食べ応えがあり、豆のうまみを存分に楽しめました。
(*データ)
栃尾又温泉「自在館」 とちおまたおんせん「じざいかん」
- 住所 新潟県魚沼市上折立66
- 電話番号 025-795-2211
- 料金 おひとり様1泊2食付16,720円~(2名1室利用時・サービス料込・入湯税150円別) ※連泊割引あり
- 公式サイト https://www.jizaikan.jp/
(*著者プロフィール)

いしい ひろこ●旅行作家・温泉ビューティ研究家。年間200日ほど国内外の温泉を旅する。雑誌や新聞などに旅コラムを書き、テレビ・ラジオにも出演。温泉や食、自然環境を通じて美しくなる“温泉ビューティツーリズム”を研究。杏林大学温泉療養学兼任講師、国際中医師、日本温泉科学会代議員、日本温泉気候物理医学会会員、カリスマ温泉ソムリエ。著書『感動の温泉宿100』(文藝春秋)ほか。https://www.onsenbeauty.com/









