Web限定連載
美しき世界遺産
Vol.18

【インド】エローラ石窟群

旅行

2026/10/02

地球の鼓動が伝わってくるようなダイナミックな自然遺産、太古から現代まで、人の営みを物語る文化遺産。ユネスコの世界遺産のなかから、一度は見てみたい魅力あふれる世界遺産をご紹介します。

ライター
文/佐道眞左 写真/富井義夫
エリア
インド

日本から直行便で行けるインド西部・マハーラーシュトラ州の州都・ムンバイ。ここから内陸へ入ったデカン高原の街・アウランガーバード郊外にある岩山に、インドで生まれた3つの宗教――仏教、ヒンドゥー教、ジャイナ教――の、計34の石窟寺院が並んでいる(冒頭写真はヒンドゥー教のカイラーサナータ(カイラーサ)寺院)。長い歳月と想像を絶する労力をかけて造られたこれらの石窟群は、その規模の大きさや良好な保存状態、建築技術や芸術的価値の高さ、3つの宗教が共存する世界でも稀な聖地であることなどが評価され、世界文化遺産に登録されている。

チャイティヤの名建築と、数々の僧院

アウランガーバードから北西へ約30㎞。荒涼としたデカン高原にある岩山のふもとに、南北2㎞以上にわたって続く34の石窟群は、12の仏教窟、17のヒンドゥー教窟、5つのジャイナ教窟から成る。これらを一度にすべて見て回るのは困難なので、シャトルバスなどを利用しながら、見応えのある石窟を中心に見学するのがおすすめだ。一番南側にある第1~12窟の仏教窟は、5~8世紀ごろに造られたと推定される。第10窟(写真)はエローラ唯一のチャイティヤ窟(仏塔がある石窟)で、インドのチャイティヤ建築の最高峰といわれるもの。高いヴォールト天井の下、仏塔の正面に仏像が祭られている(写真)。12の仏教窟のうち、第10窟以外はすべてヴィハーラと呼ばれる僧院で、僧侶が暮らした僧房や講堂などが残っている。

圧倒的存在感を放つカイラーサナータ(カイラーサ)寺院

仏教石窟群から徒歩数分のところにあるのが、第13~29窟のヒンドゥー教石窟群で、6~9世紀の開窟と想定される。破壊と創造の神・シヴァが住む聖山・カイラーサ山をイメージして、8世紀中ごろから100年以上かけて造営された第16窟のカイラーサナータ寺院(写真)は、エローラ石窟群最大のみどころ。岩山をノミで削り、上から下へと掘り進めて、楼門や前殿、拝殿、本殿、回廊などが造られた。インド国内でも類を見ない建築であり、彫刻作品だ。機械がない時代に壮大な建築を造り上げた人間の力や、注ぎ込まれた時間を思えば、驚かされるばかり。内外に濃密に施された、豪華で精緻な彫刻にも圧倒される。

神々の彫刻に魅了されるヒンドゥー教石窟群

カイラーサナータ寺院だけでも見応えは十分だが、ヒンドゥー教石窟群では、第14窟や第21窟などで見られる、神々の彫刻も見逃せない。第14窟では、「舞踏の王(ナタラージャ)」とも呼ばれるしなやかな体つきのシヴァ神、水牛の魔神を殺すドゥルガー女神、大地の女神を持ち上げている野猪に化身したヴィシュヌ神(写真)、それぞれの子どもを連れた七母神などの浮彫が見事だ。第21窟は、均整の取れた姿で、踊りのポーズを決めるシヴァ神(写真)などの浮彫が美しい。

3つの宗教が共存する稀有な聖地

ヒンドゥー教石窟群から800mほど北に、8世紀以降に造られたのが第30~34窟の石窟群だ。仏教石窟群、ヒンドゥー教石窟群が造られた後にこの地にやってきたジャイナ教徒は、それらを破壊することなく、カイラーサナータ寺院を手本に石窟群を造った。規模はほかのふたつの宗教の石窟群に比べると大きくないが、芸術的価値は高い。なかでも第32窟(写真)は完成度が高く、粗削りな部分もあるヒンドゥー教窟に比べて、豪奢な柱などの装飾は一見の価値がある。歴史上、異なる宗教を排除したり、建造物などを破壊した例は多いが、3つの宗教が共存するエローラ石窟群は世界的にも極めて珍しい場所。いまもそれぞれの宗教の聖地として、多くの巡礼者が訪れている。

 

(*世界遺産データ)

エローラ石窟群

Ellora Caves

 

  • 登録 1983年/文化遺産
  • 所在地 インド マハーラーシュトラ州

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