Web限定連載
美しき世界遺産
Vol.17

【オーストラリア連邦】タスマニア原生地域

旅行

2026/09/04

地球の鼓動が伝わってくるようなダイナミックな自然遺産、太古から現代まで、人の営みを物語る文化遺産。ユネスコの世界遺産のなかから、一度は見てみたい魅力あふれる世界遺産をご紹介します。

ライター
文/佐道眞左 写真/PIXTA
エリア
オーストラリア

オーストラリア大陸の南に浮かぶタスマニア島は、氷河期後の海面上昇により、オーストラリア大陸から孤立して生まれた島。北海道の8割ほどの大きさの自然豊かな島は、固有種の動植物の宝庫だ。クレイドル山から南西の部分には太古の森の面影を宿す原生地域が広がり、氷河の浸食によって生まれた湖や山が織り成す雄大な景観が見られる(冒頭写真はクレイドル山とダブ湖)。また、島の南部のサウスウエスト国立公園の洞窟には、3万年以上前にここで暮らした先住民、アボリジナル・ピープルが描いたとされる、ステンシル技法を用いた岩壁画などが残る。こうしたことから、自然遺産としても、文化遺産としても価値が評価され、タスマニア原生地域は世界複合遺産に登録されている。

ハイカー憧れのクレイドル山でウォーキングを

島の面積の約2割を占めるタスマニア原生地域のなかでも、クレイドル山/セントクレア湖国立公園は随一の景勝を楽しめる、観光客に人気のエリア(写真)。島内最高峰のオッサ山(標高1617m)やクレイドル山(標高1545m)などが連なる山岳地帯で、太古の造山運動により形成された粗粒玄武岩の台地が、氷河の浸食作用により削られてできた地形だ。公園は、北部のクレイドル山セクションと、南部のセントクレア湖セクションに分けられる。とくにクレイドル山セクションには数多くのブッシュウォーキングトレイルが整備されており、そそり立つ雄大な山々や点在する氷河湖、深い樹林など、神秘的な景観を眺めながらウォーキングを楽しみ、原生林の自然を満喫できる。アボリジナル・ピープルに「静かに眠る水」という意味の「リーアウリーナ」と呼ばれたセントクレア湖は、氷河の浸食によりできたU字谷に雪解け水がたまった氷河湖で、オーストラリアで最も深い湖だ。

原始の森の滝を訪ねる快適トレイル

タスマニアの州都である港町・ホバートから車で1時間ほどと、アクセスしやすい場所にあるマウントフィールド国立公園も、世界遺産・タスマニア原生地域の一部。ここはタスマニア最古の国立公園で、いくつも整備されているウォーキングトレイルのなかでも人気があるのが、ラッセルフォールズウォークだ。ユーカリの森を抜け、苔類のしっとりとした緑が美しい冷温帯雨林の清流沿いを歩き、水生シダの回廊を進むと、木々に囲まれて何段もの階段状になって落ちるラッセルフォールズ(写真)が現れる。ほかにも、巨大なスワンプガムの木が見られるトールツリーウォークなど、快適に整備されたウォーキングトレイルで、多様なタスマニアの自然を体感することができる。

「生きた化石」と呼ばれる貴重な固有種との出合い

周囲の大陸と海で隔てられてきたタスマニア島では、オーストラリア大陸では絶滅寸前の動植物や、淘汰されずに独自の進化を遂げた固有種が多く見られる。クレイドル山/セントクレア湖国立公園などでよく見かけるパンダニ(写真)は、ジュラ紀の恐竜たちが食べていた植物だ。また、オーストラリア大陸では絶滅してしまいタスマニア島でしか見られない、「生きた化石」と呼ばれるタスマニアデビル(別名フクロアナグマ・写真)は、鋭い歯を持つ世界最大級の肉食性有袋類だ。タスマニア島では、固有種以外にも有袋類の動物が多い。朝夕にはトレッキングルートなどでワラビーやウォンバットなどを見られることも。

タスマニア開拓の歴史と東海岸の絶景

先住民が暮らしていたタスマニア島を、オランダ人探検家が見つけたのは17世紀のこと。19世紀にイギリスが流刑地として入植を開始し、アボリジナル・ピープルは入植者との戦いや伝染病の蔓延により絶滅へと追い込まれた。開拓は流刑囚たちの強制労働により進められた。ホバートから100㎞ほど南東にある街・ポートアーサーには、「ポートアーサー流刑場跡」(写真)が残り、この島の歴史の一面を物語っている。また、「ホリデーコースト」と呼ばれるリゾートエリアである、東海岸のフレシネ半島も外せないスポット。タスマン海に突き出た半島の大部分がフレシネ国立公園に指定されており、なかでも、ワイングラスのような形に大きく湾曲した白砂のビーチ「ワイングラスベイ」(写真)は格別な美しさだ。生ガキなどのシーフードやチーズ、ワインなど、豊かな食もこの島での楽しみ。世界遺産・タスマニア原生地域の自然をはじめ、小さな島に多彩な魅力が詰まっている。

 

(*世界遺産データ)

タスマニア原生地域

Tasmanian Wilderness

 

  • 登録 1982年、1989年(登録地拡大)/複合遺産
  • 所在地 オーストラリア連邦タスマニア州

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