【フランス共和国】モン・サン・ミッシェルとその湾
旅行
2025/05/28
地球の鼓動が伝わってくるようなダイナミックな自然遺産、太古から現代まで、人の営みを物語る文化遺産。ユネスコの世界遺産のなかから、一度は見てみたい魅力あふれる世界遺産をご紹介します。

- 文/佐道眞左 写真/富井義夫

- フランス
世界中から多くの人々が訪れる聖地「モン・サン・ミッシェル」。干潟が紅色に染まる夕暮れ時(冒頭写真)や驚くほどの速さで潮が満ちるとき、祈りの島は、ドラマチックな表情を見せる……。
潮の干満が生み出す神秘的な景観

フランス北西部、ノルマンディー地方とブルターニュ地方の境目に位置する「モン・サン・ミッシェル」は、周囲約900メートルの小島。この島が浮かぶサン・マロ湾は世界的に潮の干満の差が激しい場所として有名だ。
干潮時には砂地に囲まれる修道院(写真)が、満潮時には驚きの速さで水に囲まれ、さながら海に浮かぶように見えるその姿は“海上のピラミッド”とも称される。多くの巡礼者が訪れてきたキリスト教の聖地は、修道者たちが祈りの日々を送る場である一方、人気の観光地でもある。
巡礼者たちが憧れた、キリスト教の聖地

かつては潮の満ち引きがあまりにも速く、波にのまれる巡礼者も少なくなかったというが、19世紀後半に堤防が築かれ、干潮時以外も島に渡ることができるようになった(写真は修道院付属の教会)。ところがその堤防が原因で湾内に砂などが堆積し、島は本来の姿ではなくなってしまった。この事態を受け、モン・サン・ミッシェルの景観を再生するための国家的プロジェクトが1995年に始動。堆積物を沖合に押し流すダムを造り、堤防道を取り壊し、潮流を妨げない橋が架けられることになった。
工事は2015年に完了し、大潮の日には、かつて巡礼者が驚きをもって眺めた、海に浮かぶ神秘的な聖地の景観が見られるようになった。さらに約18年に一度の「世紀の大潮」の日(次回は2033年)には、橋が水没して姿を隠し、完全に孤島となるモン・サン・ミッシェルが見られるだろう。
その始まりは、大天使ミカエルのお告げから


伝説では、8世紀初めにノルマンディー地方の町・アブランシュの司教、聖オベールの夢に大天使ミカエル(写真)が現れ、「岩山に聖堂を建てよ」と告げたという。そのお告げに従い建てられた小さな聖堂が、モン・サン・ミッシェルの始まりだ。
その後、建築や増改築が繰り返された結果、ロマネスク、ゴシックなどさまざまな建築様式が混在する、独特な造りの大修道院となった(写真は太柱の礼拝堂の聖母像)。
要塞や監獄にもなった天使が降臨した岩山

聖地には困難な時代もあった。14~15世紀の百年戦争で島は要塞化。城壁や堅固な門、塔が防衛のために築かれた。フランス革命以降は監獄となり、1863年の刑務所廃止まで、囚人がここで生活した歴史もある。
島へ入り、要塞としての歴史を連想させる幾重もの門を通り抜け、大階段を上ると、修道院に到着する。眺望のよい西のテラスや修道院付属の教会のほか、ノルマンディー・ゴシック建築の傑作「ラ・メルヴェイユ(驚異)」と呼ばれる建物があり、列柱廊(写真)、食堂、迎賓の間、騎士の間などを見て回れる。
岩や石でできた聖地は日中の姿も荘厳で美しいが、暮れなずむ空をバックにシルエットのように水面に浮かび上がる姿や、ライトアップされる夜の姿も幻想的だ。巡礼者たちが思いを寄せ、時には命がけでめざした聖地は、1979年に世界遺産に登録され、いまも圧倒的な存在感で人々を魅了している。
(*世界遺産データ)
モン・サン・ミッシェルとその湾
Mont-Saint-Michel and its Bay
- 登録 1979年/文化遺産
- 所在地 フランス共和国マンシュ県
※本記事は、『J-B Style25夏号』(P42~44)を転載しています。








