【日本】知床
旅行
2026/05/22
地球の鼓動が伝わってくるようなダイナミックな自然遺産、太古から現代まで、人の営みを物語る文化遺産。ユネスコの世界遺産のなかから、一度は見てみたい魅力あふれる世界遺産をご紹介します。

- 文/佐道眞左 写真/山梨勝弘

- 北海道
山々が海まで迫る険しい地形や、氷点下の気温が続く冬の寒さなど、人を寄せつけない厳しい環境ゆえに、手つかずの自然がいまなお残る秘境・知床。遠い北の海から辿り着く流氷に育まれ、命を連鎖させる海と陸の生き物たちとの感動の出合いを楽しみたい。
〝大地の先端〞に残る手つかずの自然

北海道北東部、オホーツク海に突き出た知床(しれとこ)半島は、アイヌ語の「シリエトク(大地の先端)」がその名の由来。細長い形の半島の中心部には、羅臼(らうす)岳(写真)、硫黄山など知床連山がそびえ、半島の先端に至る道路は通っていない。海から直接山脈が盛り上がったような地形は、太古の海底火山活動により生まれたもの。噴火でできた溶岩の地層が海上に隆起し、さらに陸上の火山活動で知床連山が形成された。
海岸線には断崖が続き、船での上陸も難しい。その険しい地形や厳しい冬の寒さゆえ、人を寄せつけてこなかった知床。1900年代の開拓事業も失敗に終わり、いまも核心部には容易に立ち入れないこの地は、ヒグマなどが数多く生息する豊かな森、クジラなどが回遊する海といった、手つかずの自然が残る動植物の宝庫だ。
ドライブやガイドによるツアーで豊かな自然を満喫

例年5月〜10月中旬には、半島西部のウトロと東部の羅臼を結ぶ知床横断道路(写真)が開通し、知床の大自然をドライブで楽しめる。体力に自信があるなら、ウトロと羅臼の間にある羅臼湖トレイルを歩いてみたい。本格的な登山の装備や長靴の用意が必要で、ガイド同行のツアーに参加するのがおすすめだが、沼や湿原、高山植物など知床ならではの豊かな自然が満喫できる。また、羅臼岳と硫黄山のふもとに点在する知床五湖(冒頭写真は二湖)を、地上遊歩道で巡るのもおすすめだ。遊歩道に立ち入るには手続きが必要で、とくに5月10日〜7月末のヒグマ活動期はガイド(知床五湖登録引率者)によるツアー(要予約)に参加しなければならないが、8月〜11月上旬と4月下旬〜5月9日の植生保護期は、手続き後に講習を受ければガイドなしでも歩ける。手続きなしで気軽に楽しみたい場合は、高架木道で一湖まで行き、湖と知床連山を眺めよう。
船上から静かに眺める知床の美しく壮大な絶景


「乙女の涙」の別名をもつフレペの滝、切り立った崖から落ちるカシュニの滝(写真)といったいくつもの滝や断崖絶壁、半島の突端にある知床岬、知床連山の美しい稜線(りょうせん)……、海上からでなければ見ることが難しいこれらの絶景は、ウトロから出る観光船から眺められる。海岸線を歩くヒグマやイシイルカ、オジロワシなど、動物たちとの出合いも楽しみだ(写真はエゾジカ)。知床半島沿岸は北半球の流氷の南限。11月の終わりごろ、サハリンの北の海で生まれた氷はオホーツク海を南下し、1月下旬ごろ知床半島沿岸に辿り着く。
流氷が育む、海と陸の生き物たちとの出合い

流氷に閉じ込められていた植物プランクトンは、春に氷が溶けて放出されると光合成で増殖して魚などの餌となり、魚はクジラやシャチなどの大型哺乳類や鳥の餌になる。オホーツク海で育ったサケやマスは川に戻ってヒグマなどの餌になり、ヒグマの食べ残しはキツネなどが食べ、動物たちのフンを栄養にして、森の草木が育つ。流氷がもたらす海、川、陸、山にまたがる食物連鎖が、半島とその周辺の海の豊かな生態系をつくっている。このような海と陸の命の循環により育まれる生態系の存在、オオワシやシマフクロウなどの絶滅危惧種の生息地であることなどが評価され、知床半島の中央部から先端にかけての陸域と周囲の海域は、世界自然遺産に登録されている。海と森が繋がる自然の豊かさを満喫したい。
(*世界遺産データ)
知床
Shiretoko
●登録 2005年/自然遺産
●所在地 日本 北海道斜里町、羅臼町
※本記事は、『J-B Style26年夏号』(P52~55)を転載しています。












