【日本】小笠原諸島
旅行
2026/04/09
地球の鼓動が伝わってくるようなダイナミックな自然遺産、太古から現代まで、人の営みを物語る文化遺産。ユネスコの世界遺産のなかから、一度は見てみたい魅力あふれる世界遺産をご紹介します。

- 文/佐道眞左 写真提供/富井義夫

- 東京都
本州のはるか南、北太平洋上に浮かぶ亜熱帯の島々が小笠原諸島。小笠原群島(聟島(むこじま)列島・父島列島・母島列島)と火山(硫黄)列島(北硫黄島・硫黄島・南硫黄島)のほか、西之島、南鳥島、沖ノ鳥島が、南北約400kmにわたって散在する。大小30余りの島々のなかで人が暮らすのは父島と母島のみ。ほかには硫黄島と南鳥島に、自衛隊などの施設があるだけだ。アクセス手段は船のみ。通常は東京・竹芝桟橋から父島の二見港までほぼ週に1便の定期航路で、行政上は東京都の一部だが、片道約24時間を要する。父島と、父島から定期船がある母島以外の島には、基本的にツアーなどを利用して訪れる。父島南西沖に浮かぶ南島の沈水カルスト地形(冒頭写真)や、父島の南岸にある巨大なハート形の断崖絶壁・ハートロック(千尋岩)など、珍しい地形や絶景にあちこちで出合えるのは、小笠原諸島の大きな魅力だ。
火山が生んだ絶海の島々

小笠原諸島は、海底火山の活動によって生まれた火山島。いまから4800万年ほど前に太平洋プレートがフィリピン海プレートの下に沈み始め、フィリピン海プレートの下でマグマが発生。火山活動により、父島・聟島列島が誕生した(写真は父島)。その後も太平洋プレートは沈み続け、4400万年ほど前にはより深い所でマグマが発生。新たな火山活動が起こり、母島列島が誕生した。このようにしてできた小笠原諸島は、過去に一度も大陸と地続きになったことがない、「海洋島」と呼ばれる島だ。
海洋島ならではの進化の過程を実感


海洋島にどのようにして生き物たちはやってきたのだろうか。小笠原諸島には、本州、東南アジア、オセアニアの3方向から風、海流、鳥によって、植物や昆虫、小動物などが運ばれてきたと考えられている。天敵がいない島々で、多くの生き物が環境に適応しながら独自に進化を遂げた。小笠原諸島では植物(維管束植物)の約36%、昆虫類の約28%、陸産貝類(カタツムリの仲間)の約94%を固有種(写真左はマルハチ、右は絶滅したヒロベソカタマイマイの貝殻(写真/小笠原村観光局))が占め、「進化の実験場」とも「東洋のガラパゴス」とも呼ばれている。なかでも長い距離を移動できない陸産貝類は、約300万年前に辿り着いたひとつの種から、島ごとや地域ごとに異なる多くの種(現在残るのは100種以上)に分かれて生息しており、進化の過程を実感することができる。小さな島でありながら固有種の割合が高いこと、陸産貝類や植物に、進化の過程がわかる貴重な証拠が残されていることなどが評価され、小笠原諸島の父島と母島の集落を除いた区域と、周辺の海域の一部が、世界自然遺産に登録された。
美しき島々に残る戦争の跡


小笠原諸島は1593(文禄2)年に発見されたと伝えられるものの、確証はない。1675(延宝3)年に江戸幕府が送った船が二見港(写真)に錨を下ろし島々を調査。「此島大日本之内也(このしまだいにっぽんのうちなり)」という碑が父島に立てられ、小笠原諸島は「ぶにん(無人)のしま」と呼ばれるようになった。1830(文政13)年に欧米人と太平洋諸島民がハワイから入植を始めるまでは無人島だった小笠原諸島。国際的に日本の領土と認められたのは1876(明治9)年のことだ。太平洋戦争時には島民は全員本土へ強制疎開となり、軍隊が駐留。硫黄島では激戦が繰り広げられた。戦後、小笠原諸島はアメリカの直接統治下に置かれ、1968(昭和43)年に日本に復帰するが、現在も戦争の記憶を物語る砲台や弾薬庫などの戦跡が多く残る(写真は父島・大根山公園墓地のトーチカ)。
「ボニンブルー」の豊かな海


豊かな自然が残る島々では、海や森でさまざまな生き物と出合える。周辺は日本最大のアオウミガメの産卵地。5~8月ごろ、夜明け前には、産卵を終え海へ帰るアオウミガメを見かけるかもしれない。父島や母島周辺では、一年を通してミナミハンドウイルカやハシナガイルカの群れに出合うことができる。クジラ(写真)やイルカが集まる小笠原諸島周辺の海は透明度が高く、その独特な濃い青色は「ボニンブルー」と呼ばれる(写真)。海洋島の生き物は、人間の活動などによりほかの地域から入ってくる外来種に大きな影響を受けてしまう。固有種がつくる豊かな生態系を守るため、小笠原諸島を訪ねる人にはさまざまなルールが課せられていて、父島・母島の森林生態系保護地域内の指定ルートや南島および母島石門一帯は、ガイドの同行がなければ入ることができない。自然保護のためのルールに沿って、ここにしかない絶景や貴重な生き物たちとの出合いを楽しみたい。
(*世界遺産データ)
小笠原諸島
Ogasawara Islands
●登録 2011年/自然遺産
●所在地 日本 東京都小笠原村











