【金沢城】 “石垣の博物館”は前田家の美の結晶
歴史
2025/01/10
城を見れば、日本がわかる――昔から、城はその土地の歴史の起点になり、城下町は文化を育んできました。数多ある全国の城のなかから、城郭ライターの萩原さちこさんが、この時期に訪れたいおすすめの名城と“ツウな”みどころを教えます。

- 取材・文/萩原さちこ(城郭ライター) 写真/岡 泰行(城郭カメラマン)、PIXTA

- 石川県
北陸の名城・金沢城が、“石垣の博物館”の異名をとることをご存じだろうか。城内はまるで野外博物館。寒空の下で映える、ほかの城には見られない独創的な石垣の美がある(冒頭写真)*。さまざまな表情を探し歩けば、きっと寒さも忘れるはずだ。今回は、そんな金沢城の魅力をご紹介しよう。
*令和6年1月1日に発生した能登半島地震により、石垣の一部が崩れています。
前田利家が築き、歴代城主が芸術性を継承

1583(天正11)年から、現在の金沢城を築城したのは、加賀(石川県南部)百万石の礎を築いた前田利家(まえだとしいえ)だ。とはいえ、城内の石垣は利家がすべてを築いたわけではなく、歴代城主により断続的に積まれている。文禄期(16世紀末)~文化期(19世紀初頭)まで、構築時期は大きく7期。前田家は美的センスに長けた一族だったようで、城主が改修のたびにそれぞれ芸術的な石垣を生み出してきた。
加賀藩は文化水準を高めることに労を惜しまず、現在も金沢には金沢箔、九谷(くたに)焼、金沢漆器、大樋(おおひ)焼、加賀友禅など、伝統的な工芸と芸能が息づく。その背景にあるのは、3代・利常(としつね)、5代・綱紀(つなのり)が奨励した文化政策だ。江戸時代初期から庶民にも芸術にふれる習慣が根付き、独自の食文化も発展。それらの象徴となる金沢城にも、大大名としての気高さと美意識の高さが随所に感じられる(写真)。
多種多様な積み方の石垣があちこちに


例えば、いもり坂や薪(たきぎ)の丸の石垣群。表面をでこぼこに削った「金場取(かねばと)り残し積み」と隅をシャープに整えた「江戸切り」が組み合わせられ、野性的な雰囲気がただよう(写真)。一方で、数寄屋屋敷の「切込接(きりこみはぎ)の布積み」の石垣は、繊細ですっきりした印象だ。
城内最古の石垣は、1592(文禄元)年に積まれたとみられる東ノ丸北面(丑寅櫓(うしとらやぐら)下)の石垣だ。いかにも古い、味わい深さがある。必見は、長方形の石を段違いに組み合わせた、玉泉院丸(ぎょくせんいんまる)庭園に面した斜面一帯の「色紙短冊(しきしたんざく)積み」(写真)。石垣の最上部に滝を組み込んで庭園の借景とした見事な意匠に感嘆する。
赤色と青色の石が交ざったカラフルな石垣も、大きな特徴のひとつ。どちらも金沢城から8㎞ほど南東にある戸室山(とむろやま)でとれる「戸室石」という安山岩で、溶岩が冷えるときの条件で赤や青に変色する。
建物にも実用性と高い芸術性を両立


建造物にも独創性が光る。まず目につくのが、白と黒の格子模様の「海鼠(なまこ)壁」(写真)だ。壁面に平瓦を貼り付け、繋ぎ目に白漆喰をかまぼこ型に盛り上げて塗り固める。土蔵などに用いられる耐久性の高い壁で、寒さの厳しい北陸の城によく見られる。
意匠の最大の特徴といえるのが、「唐破風付きの出格子窓」(写真)。石垣や櫓の壁面に設けられた大きな出窓で、床面の石落としから石垣をよじ登る敵を攻撃できるだけでなく、壁の左右の小窓から側面攻撃もできるようになっている。寺社建築が由来の格式高い唐破風を付けているところに、前田家の美意識の高さを感じずにいられない。
海鼠壁や唐破風付きの出格子窓は、現存する石川門や三十間長屋で見ることができる。美観と実用を兼ね備えた寒冷地ならではの知恵に、だれもが感服してしまうはずだ。
城下町の茶屋街と体も心も温まる郷土料理


金沢城と城下町は、浅野川と犀川(さいがわ)に挟まれている。ふたつの河川は用水の源であるとともに、城の外堀でもあった。
江戸後期に公許された犀川近くの「にし茶屋街」は、金沢に3つ残る茶屋街のひとつ。南側には70余の寺院が集められ、寺町を形成している。観光地として人気の「ひがし茶屋街」(写真)は浅野川のほとりで昔の面影をとどめ、木虫籠(きむすこ)と呼ばれる出格子付きの建物が並ぶ。町の至るところに用水が網目のように張り巡らされ、清らかなせせらぎが聞こえてくるのがいい。その数は55本、総延長は約150㎞という。農業・生活・工業・防火用水としてだけではなく、武家屋敷の庭園にも取り入れられた。
おいしいものが多いのも、金沢の魅力だ。数ある加賀料理のなかでも、寒い冬におすすめなのが「治部煮(じぶに)」(写真)。小麦粉をまぶしたそぎ切りの鴨肉や鶏肉に、加賀特産のすだれ麩やせり、百合根など四季折々の食材を合わせて煮た一品で、添えられたワサビをあんに溶かして食べる。武士のもてなし料理、宣教師が考案した……など、ルーツは諸説あるようだ。旅の締めくくりに、郷土料理に舌鼓を打ってはいかがだろう。
(*データ)
「金沢城(金沢城公園)」かなざわじょう(かなざわじょうこうえん)
- 住所 石川県金沢市丸の内1-1
- 電話番号 076-234-3800
- 営業時間 8:00AM~5:00PM(3月1日~10月15日は7:00AM~6:00PM、菱櫓・五十間長屋・橋爪門続櫓・橋爪門は9:00AM~4:00PM(最終入館))
- 休み 無休
- 料金 入園無料(菱櫓・五十間長屋・橋爪門続櫓・橋爪門は、大人320円)
- 公式サイト https://www.pref.ishikawa.jp/siro-niwa/kanazawajou/
※掲載内容は、2025年1月時点の情報です。時期や天候、施設・店舗の諸事情により変更となる場合があります。 ※価格は消費税込。
(*著者プロフィール)

萩原さちこ(はぎわら さちこ)●城郭ライター、編集者。城旅デザインラボ代表、城組代表、日本城郭協会理事。執筆業を中心に、講演、メディア・イベント出演などを行う。著書に『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術』(講談社ブルーバックス)、『地形と立地から読み解く「戦国の城」』(マイナビ出版)、『日本の城語辞典』(誠文堂新光社)、『日本100名城と続日本100名城めぐりの旅』(ワン・パブリッシング)など。https://46meg.com/
(*写真家プロフィール)

写真/岡 泰行(おか やすゆき)●城郭カメラマン。大阪市在住。1994年から城の撮影を開始。先人たちの知恵とおしゃれ心をテーマに、写真を通して日本の城の魅力を探る。大坂城豊臣石垣の発掘ならびに保存工程の撮影にも携わる。全日本写真連盟「全日本お城写真コンテスト」審査委員⾧。「お城めぐりFAN(https://www.shirofan.com/)」主宰。










