【江戸城】 日本一のスケールを誇った徳川将軍家の巨城
歴史
2025/03/07
城を見れば、日本がわかる――昔から、城はその土地の歴史の起点になり、城下町は文化を育んできました。数多ある全国の城のなかから、城郭ライター萩原さちこさんが、この時期に訪れたいおすすめの名城と“ツウな”みどころを教えます。

- 取材・文/萩原さちこ(城郭ライター) 写真/岡 泰行(城郭カメラマン)

- 東京都
264年もの間、江戸幕府の本拠地として君臨した徳川将軍家の居城「江戸城」。現在は皇居一帯となっているこのエリアには、かつて日本城郭史上最大の城があった(冒頭写真は現在も残る富士見櫓)。幕府の威光を示すべく築かれた江戸城は、将軍家の城たるスケールと最高峰の技術力がみどころだ。今回はその魅力をお届けしよう。
江戸城の総面積は日本城郭史上最大規模


かつての江戸城の西の丸や吹上などは、現在皇居として使われている。皇居東御苑として一般公開されているのが、本丸・二の丸・三の丸の一部だ。これらのほか、北の丸公園になっている北の丸や大手前などを含めた、おおよそ内堀通りで囲まれたエリアが「内郭(うちぐるわ)」という江戸城の中心部に当たる(写真は現存する巽櫓)。 さらに、内郭の外側には外濠で囲まれた「外郭(そとぐるわ)」が存在する。御茶ノ水付近の神田川は、外濠の一部。JR御茶ノ水駅付近から四ツ谷駅付近まで線路と並行しているのは、実は江戸城の外濠なのだ(写真)。JRの線路は外濠に沿った土塁を利用して造られている。
外郭には「見附(みつけ)」と呼ばれる城門がいくつも置かれていた。四ツ谷駅、市ケ谷駅、飯田橋駅の改札脇にある石垣は、それぞれ四谷門、市ヶ谷門、牛込(うしごめ)門の土台。外濠は虎ノ門方面へと続き、東は隅田川まで。外郭の総延長は約14~16㎞、城の総面積は日本城郭史上最大だった
「天下普請」で最高峰の技術と資材を集結

現在の江戸城は、徳川家康が、江戸幕府を開府した1603(慶長8)年から本格的に築城を開始した。東日本の城には少ない見事な高石垣(写真)が広範囲に築かれているのは、「天下普請(ぶしん)」によるものだ。天下普請とは、江戸幕府の命令により全国の諸大名が動員される事業のこと。それまでの城づくりがマイホーム建設だとしたら、天下普請は国家プロジェクト。加藤清正や福島正則、堀尾吉晴など、織田信長や豊臣秀吉のもとで実戦経験を積み、城づくりの技術を磨いてきた精鋭たちが招集され、築城に励んだ。
天下普請は、資材調達や人員確保、それにかかる費用のすべてが大名の自己負担となる。幕藩体制を盤石にしたい江戸幕府にとって、反逆者となりうる大名の財力を削ぎ、抵抗心を制御する意味でもうってつけの政策だった。しかし、大名たちは幕府へのアピールチャンスとばかりに、こぞって資金と人員を投じたようだ。こうして、トップレベルの技術者とハイクラスの資材が集結して完成したのが、江戸城だった。
徳川家康による“江戸大都市化計画”


家康は、日比谷入り江を埋め立てて土地を確保し、濠を穿って物資輸送に不可欠な荷揚げ場や江戸湾の整備を推進(写真は現在も千代田区に残る荷揚げ場跡)。大規模な土木工事により城内や城下の敷地が拡張され、船運ネットワークや人口の増加に伴う上水システムを構築するなどのインフラ整備が行われた(写真は外濠・千鳥ヶ淵の春の風景)。江戸時代初期のインフラ整備力は、世界的にも高水準を誇った。地形の使い方も秀逸だ。知れば知るほど、大都市・東京の発展は江戸城と江戸城下町を基に成立しているとわかり感激する。
1615(元和元)年に、幕府が公布した「武家諸法度」により全国の城が動きを止めた一方で、江戸城はその制約を受けていない。そのため築城期間が長く、また江戸時代を通じて適切に修復されたため、石垣に技術の発展が見られるのも特徴だ。大名ごとに異なる技術や全国各地から集まった資材の違いも楽しめる。
江戸幕府の権威を天下に示した大天守

江戸城の天守は、3人の将軍(家康、秀忠、家光)がそれぞれ建造した。家光の3代目天守は、巨大かつ豪華で幕府の栄華を示していたが、完成から19年後の1657(明暦3)年に「明暦の大火(振り袖火事)」で焼失。4代・徳川家綱が再建を計画したものの、大災害の復興が優先され再建はされなかった。補佐役の保科正之(ほしなまさゆき)の「実用性に乏しい天守建築は無駄」という鶴のひと声で見送られたのは有名な話だ。以後、再建計画は持ち上がったものの、再建されることはなかった。
現在本丸に残る天守台(写真)は、明暦の大火後、加賀藩5代藩主の前田綱紀(つなのり)により積み直されたもの。さすがは最高峰の技術力をもつ前田家の築造、天守台の算木積みは日本一といえるほど美しい。
(*データ)
江戸城 えどじょう
- 住所 東京都千代田区千代田1-1(皇居東御苑)
- 電話番号 03-3213-1111(宮内庁)
- 営業時間 9:00AM~5:00PM(4/15~8月末日 ~6:00PM、10月 ~4:30PM、11~2月 ~4:00PM)※最終入園は閉園30分前
- 休み 月・金曜(天皇誕生日以外の「国民の祝日等の休日」は公開。月曜が休日の場合は、火曜休)、年末年始
- 料金 入園無料
- 公式サイト https://www.kunaicho.go.jp/event/higashigyoen/higashigyoen.html
※掲載内容は、2025年2月時点の情報です。時期や天候、施設・店舗の諸事情により変更となる場合があります。
(*著者プロフィール)

萩原さちこ(はぎわら さちこ)●城郭ライター、編集者。城旅デザインラボ代表、城組代表、日本城郭協会理事。執筆業を中心に、講演、メディア・イベント出演などを行う。著書に『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術』(講談社ブルーバックス)、『地形と立地から読み解く「戦国の城」』(マイナビ出版)、『日本の城語辞典』(誠文堂新光社)、『日本100名城と続日本100名城めぐりの旅』(ワン・パブリッシング)など。https://46meg.com/
(*写真家プロフィール)

写真/岡 泰行(おか やすゆき)●城郭カメラマン。大阪市在住。1994年から城の撮影を開始。先人たちの知恵とおしゃれ心をテーマに、写真を通して日本の城の魅力を探る。大坂城豊臣石垣の発掘ならびに保存工程の撮影にも携わる。全日本写真連盟「全日本お城写真コンテスト」審査委員⾧。「お城めぐりFAN(https://www.shirofan.com/)」主宰。










