紅葉ライトアップも! 秋色に染まる国宝天守「彦根城」(滋賀県)
歴史
2024/09/06
城を見れば、日本がわかる――昔から、城はその土地の歴史の起点になり、城下町は文化を育んできました。数多ある全国の城のなかから、城郭ライターの萩原さちこさんが、この時期に訪れたいおすすめの名城と“ツウな”みどころを教えます。

- 取材・文/萩原さちこ(城郭ライター) 写真/岡 泰行(城郭カメラマン)

- 滋賀県
暑さがやわらぎ、旅のベストシーズンがやってくる。秋空に映える紅葉が、天守や石垣をよりドラマチックに演出してくれる日ももうすぐだ。今回ご紹介するのは、国宝天守のほか、江戸時代から現存する櫓(やぐら)や見事な石垣など、みどころの多い「彦根城」(冒頭写真)。大名庭園や城下町も楽しめ、秋の彩りを存分に満喫できる城だ。
大坂の豊臣家を牽制! 実戦仕様の設計が光る


1600(慶長5)年の関ヶ原の戦いの後、徳川家康の重臣であった井伊直政が石田三成の旧領である佐和山(さわやま)(写真)を拝領。彦根城は、佐和山城に代わる新たな支配拠点として、直政の子・直孝が1604(慶長9)年から築き始めた城だ。
彦根城は、大坂城(現大阪城)の豊臣秀頼および西国の大名を牽制する拠点のひとつとして、幕命による「天下普請(ぶしん)」で築かれた。実戦を想定しているため、軍事施設としての設計の妙が随所に光る。
例えば、天秤櫓付近(写真)。門前にかかる橋を見上げながら何度も折り返し、橋を渡らなければ天秤櫓を突破できない。実は、橋下の通路は、人工的に山を断ち切った大堀切の堀底。東西どちらの門から登城しても、この堀底に辿り着くように設計されている。侵入者は本丸側の天秤櫓と独立分離した鐘の丸から挟み撃ちにされ、たとえ鐘の丸まで侵攻できたとしても、橋を壊されてしまえば本丸へ侵攻することはできないようになっている。
美観と実用性を兼ね備えた、スタイリッシュな天守

国宝の天守(写真)は、高さは約21mと小ぶりながら粋な雰囲気が漂う。特徴は、破風(はふ)の多さとデザイン性の高さだ。多種多様な破風が所狭しと壁面を彩り、城下から大きく立派に見せる工夫、格を高める配慮があちこちに感じられる。梁行(はりゆき)に対して桁行(けたゆき)が長い長方形のため、東・西面はどっしりと、南・北面はきりりと端正に見えるのも魅力だ。


外観とは対照的に、内部は緊迫感が漂う実戦仕様。射撃用の「狭間(さま)」を無数に配し、明らかに戦うことを想定している。しかし、美観を損なわずに実用性を高めているのが彦根城天守の見事なところだ。外側を漆喰で塗り固めて外から見えないようにした「隠し狭間」(写真)が採用されている。最上階の南北面と2階の東西面には、入母屋(いりもや)破風の内部にできるスペースを活用した「隠し部屋」という小部屋まである(写真)。
秋は玄宮園で、幻想的な紅葉ライトアップを


天守以外にも佐和口多聞櫓(たもんやぐら)、天秤櫓、太鼓門および続櫓(つづきやぐら)が江戸時代から残る。とくに天秤櫓(写真)はほかの城にはない独特の形状で、多聞櫓の両隅に二重櫓が左右対称に建てられ、天秤のように見えることからそう呼ばれる。
本丸の表口を固める太鼓門も一風変わった造りで、門をくぐって振り返ると、櫓の裏側には高欄付きの廊下がある。表門前の馬屋(写真)も、城内に残るものとしては国内唯一の現存例だ。

彦根藩主・井伊家の大名庭園、玄宮園(げんきゅうえん)にも忘れずに立ち寄りたい。とくに秋の夜には期間限定でライトアップされ、幻想的な姿を見ることができる(写真/彦根観光協会提供)。玄宮園は、1677(延宝5)年に4代藩主・直興が造営を開始した槻御殿(けやきごてん)の庭園部分。広大な池「魚躍沼(ぎょやくしょう)」を中心に、大小4つの中島、9つの橋などによる変化に富んだ池泉回遊式庭園で、数寄屋建築「臨池閣(りんちかく)(八景亭)」越しには、彦根城の天守が望める。
滋賀県の名物「近江牛」も、彦根藩がルーツ


食欲の秋には、「近江牛」に舌鼓を打つのも一興だ(写真はイメージ)。近江牛と呼ばれるようになったのは明治時代半ばからだが、ルーツは彦根藩にある。
江戸時代中期、第3代藩主・井伊直澄の時代に、彦根藩士の花木伝右衛門が牛肉を味噌漬けにした「反本丸(へんぽんがん)」を考案し、近江の牛肉は養生薬として日本各地に広まった。陣太鼓に使用する牛皮を幕府に献上するのも、彦根藩の毎年の慣例だった。肉食習慣のないこの時代において、牛の屠畜(とちく)が幕府に特例で認められていた彦根藩だからこそできた発明だったようだ。反本丸は将軍家や諸大名に献上され、やがて牛肉を乾燥させた「干し肉」も開発され、各地に送られた。
さかのぼれば、戦国時代の近江では日野(現・滋賀県日野町)を領地としていた蒲生氏郷(がもううじさと)も牛肉を好み、いち早く食肉牛を飼育していたとされる。主要街道が通る近江は中世から商業が活発で、氏郷も楽市楽座を置いて商業を活性化させていた。そう考えると、近江商人が、日本の牛肉食文化の普及にひと役買ったといえるのかもしれない(写真は彦根城下町)。
(*データ)
「彦根城」ひこねじょう
- 住所 滋賀県彦根市金亀町1-1
- 電話番号 0749-22-2742
- 営業時間 8:30AM~4:30PM(最終入場)
- 休み 無休 ※2024年9月27日(金)まで彦根城天守内部は耐震工事のため入場不可
- 料金 大人800円(玄宮園は大人200円、彦根城とのセット料金(彦根城博物館含む)は1,200円) ※10月からは大人1,000円(玄宮園は大人400円、彦根城とのセット料金(彦根城博物館含む)は1,500円)
- 公式サイト https://hikonecastle.com/
「錦秋の玄宮園ライトアップ」きんしゅうのげんきゅうえんらいとあっぷ
- 住所 滋賀県彦根市金亀町3
- 電話番号 0749-23-0001(彦根観光協会)
- 営業時間 6:00PM~9:00PM(最終入場) ※11月16日(土)~11月30日(土)開催
- 料金 ライトアップ入場 大人900円
※掲載内容は、2024年8月時点の情報です。時期や天候、施設・店舗の諸事情により変更となる場合があります。 ※価格は消費税込。
(*著者プロフィール)

萩原さちこ(はぎわら さちこ)●城郭ライター、編集者。城旅デザインラボ代表、城組代表、日本城郭協会理事。執筆業を中心に、講演、メディア・イベント出演などを行う。著書に『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術』(講談社ブルーバックス)、『地形と立地から読み解く「戦国の城」』(マイナビ出版)、『日本の城語辞典』(誠文堂新光社)、『日本100名城と続日本100名城めぐりの旅』(ワン・パブリッシング)など。https://46meg.com/
写真/岡 泰行(おか やすゆき)●城郭カメラマン。大阪市在住。1994年から城の撮影を開始。先人たちの知恵とおしゃれ心をテーマに、写真を通して日本の城の魅力を探る。大坂城豊臣石垣の発掘ならびに保存工程の撮影にも携わる。全日本写真連盟「全日本お城写真コンテスト」審査委員⾧。「お城めぐりFAN(https://www.shirofan.com/)」主宰。










