夏の涼と風物詩“鵜飼” 水辺にそびえる「犬山城」(愛知県)
歴史
2024/07/05
城を見れば、日本がわかる――昔から、城はその土地の歴史の起点になり、城下町は文化を育んできました。数多ある全国の城のなかから、城郭ライターの萩原さちこさんが、この時期に訪れたいおすすめの名城と“ツウな”みどころを教えます。

- 取材・文/萩原さちこ(城郭ライター) 写真/岡 泰行(城郭カメラマン)

- 愛知県
夏の太陽の下で輝く天守の美しさは格別だが、炎天下での城歩きはややつらい。そこで今回は、涼を呼ぶ水辺の城をご紹介したい。木曽川を見下ろす断崖に立つ、国宝天守を擁する犬山城だ(冒頭写真)。
木曽川に守られた 要害堅固な国境の城


江戸時代から残る12の天守のうち、国宝に指定されている天守は全国に5つある。そのひとつが、犬山城の天守だ(写真)。高さは約19m、天守台を含めると約24mになり、木曽川南岸にある標高約80mの断崖上に立つ姿は凛とした格好よさがある。
犬山城は、断崖の最高所に本丸を置き、曲輪(区画)(写真)が並ぶ。天守は本丸の奥まった場所に立ち、搦(からめ)手(裏手)が木曽川に続く。木曽川沿いの断崖上に天守が立てられているのは、川が城の背後を守ってくれるからだ。
この地は美濃(みの)(岐阜県南部)と尾張(おわり)(愛知県西部)の国境に当たり、木曽川の対岸は美濃国だった。犬山城は中山道と木曽街道にも通じることから、交易・政治・経済の要衝として栄え、その利便性を巡って戦国時代には何度も激戦が繰り広げられた場所。羽柴(豊臣)秀吉と徳川家康・織田信雄(のぶかつ)連合軍が衝突した小牧(こまき)・長久手(ながくて)の戦いの舞台にもなり、秀吉も犬山城に入っている。
犬山城を特徴づける さまざまな天守の装飾

天守は、三重四階地下二階の望楼型で古式の美が感じられる。最上階が、木材の柱や梁をそのまま露出させる「真壁造(しんかべづくり)」なのも大きな特徴。鐘形の「華頭窓(かとうまど)」が、窓ではなく木枠を貼りつけただけの装飾なのも面白い(写真)。
この城を「白帝(はくてい)城」とも呼ぶのは、江戸時代の儒学者・荻生徂徠(おぎゅうそらい)が、木曽川沿いに立つ犬山城を見て、中国の長江に臨む風光明媚な白帝城(重慶(じゅうけい)市)を連想して名づけたからという。白帝城のある場所は長江(揚子江)三峡のひとつで、『三国志』や李白の漢詩でも知られる名所。徂徠の目にも、犬山城はそれほど美しく見えたのだろう。
最上階の廻縁から望む 山、川、街の絶景


天守最上階からの眺望のよさも、犬山城の魅力だ。最大の特徴は、壁面の外側を巡る廻縁(まわりえん)(写真)を1周できること。廻縁は天守に必ずついているイメージがあるが、実際にはそれほど設けられてはいない。風雨にさらされると木材が腐朽してしまうため、室内に取り込まれたり、高欄だけが飾りとしてつけられたりすることが多いのだ。
全国に現存する12の天守のうち、廻縁を1周できるのは犬山城と高知城(高知県高知市)だけ。廻縁からは木曽川を見下ろせ、濃尾平野の見事な眺望、晴れていれば遠くに岐阜城(岐阜県岐阜市)や名古屋市街地までも一望できる。濃尾両国を制した気分にもなれるだろう。吹き抜ける風が心地よく、時間を忘れる(写真)。
夏の風物詩「木曽川鵜飼」で 船上から天守を望む

さて、夏におすすめなのが、木曽川を遊覧する船上から天守を見上げる特別な体験だ。「木曽川鵜飼(うかい)」の観覧船に乗れば、犬山の夏の風物詩である鵜飼と遊覧を楽しめる(写真)。
鵜飼の起源は古墳時代ともいわれ、文献に現れるのは、702(大宝2)年の「鵜養部目都良売(うかいべのめづらめ)」という長良川鵜飼を生業とする人物についての記述が初見。美濃では1300年以上の歴史があり、室町時代に将軍・足利義教(よしのり)が鵜飼を観覧したという記録もある。現在のようにおもてなしのひとつとして取り入れたのは織田信長で、武田信玄の使者が美濃を訪れた際に鵜飼観覧に招待したとされている。江戸時代には、1615(元和元)年に徳川家康・秀忠父子が観覧したのを機に将軍家への鮎鮨献上が始まり、やがて尾張藩では長良川鵜飼の上覧が慣例となった。
犬山(木曽川)では、城主の成瀬正親(なるせまさちか)が17世紀後半に御料鵜飼として始め、鵜匠を保護したといわれている。
船上から見上げる天守は、対岸から望むよりも迫力がある。断崖が迫り来るように感じられ、天守もより勇壮に見える。また、水面に近いため地上よりひんやり。かつての城主達も、船上で涼をとりながらこの景色を愛でていたのかもしれない。
(*データ)
「犬山城」いぬやまじょう
- 住所 愛知県犬山市犬山北古券65-2
- 電話番号 0568-61-1711(犬山城管理事務所)
- 営業時間 9:00AM~5:00PM(最終入場4:30PM)
- 休み 12/29~31
- 料金 大人550円 ※現金のみ(クレジットカード不可)
- 公式サイト https://inuyama-castle.jp/
※掲載内容は2024年3月時点の情報です。
(*著者プロフィール)

萩原さちこ(はぎわら さちこ)●城郭ライター、編集者。城旅デザインラボ代表、城組代表、日本城郭協会理事。執筆業を中心に、講演、メディア・イベント出演などを行う。著書に『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『城の科学〜個性豊かな天守の「超」技術』(講談社ブルーバックス)、『地形と立地から読み解く「戦国の城」』(マイナビ出版)、『日本の城語辞典』(誠文堂新光社)、『日本100名城と続日本100名城めぐりの旅』(ワン・パブリッシング)など。https://46meg.com/
写真/岡 泰行(おか やすゆき)●城郭カメラマン。大阪市在住。1994年から城の撮影を開始。先人たちの知恵とおしゃれ心をテーマに、写真を通して日本の城の魅力を探る。大坂城豊臣石垣の発掘ならびに保存工程の撮影にも携わる。全日本写真連盟「全日本お城写真コンテスト」審査委員⾧。「お城めぐりFAN(https://www.shirofan.com/)」主宰。










