国宝仏特別公開中! いま行くべき安倍晴明ゆかりの「安倍文殊院」
旅行
2024/10/11
『J-B Style2024年秋号』の特集「錦秋の奈良大和 古社寺巡礼」で紹介している「安倍文殊院」は、その名のとおり安倍一族の氏寺として飛鳥時代に創建されました。よく知られる陰陽師・安倍晴明とも縁が深い寺院。いまなら特別な姿の国宝仏像を間近で参拝できます(~2025年5月末日)。

- 取材・文/高田京子 写真/中田浩資

- 奈良県
奈良県桜井市にある「安倍文殊院(あべもんじゅいん)」は、大化の改新が始まった645(大化元)年、左大臣・安倍倉梯麻呂(あべのくらはしまろ)が安倍一族の氏寺として建立したのが始まりだ。遣唐使として唐へ渡り、「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」という望郷の歌で知られる安倍仲麻呂(なかまろ)や、平安時代の優れた陰陽師として知られる安倍晴明(せいめい)出生の地とも伝わる。晴明は幼少期にこの地で陰陽思想や天文観測を学んだという。
安倍晴明の足跡を感じる、数少ない聖地のひとつ


安倍文殊院(写真)では、2004(平成16)年に安倍晴明千回忌を迎えるに当たり、200年ぶりに晴明堂(写真)を再建した。暦学や天文学の知識を基に呪術や祭りを行う陰陽道は、中国で生まれた陰陽五行思想を取り入れ、平安時代の日本で独自の発展を遂げた。とくに安倍晴明は貴族の吉凶を占い、祭祀を行うなど宮廷で大活躍。藤原道長にも重用され、藤原氏について書かれた歴史物語『栄花(えいが)物語』のなかでは陰陽道の達人と記されている。さらに室町時代になると「神の化身」としても崇められるようになった。
安倍文殊院は古来、安倍晴明信仰の聖地のひとつとして数えられてきたが、近年は“陰陽師・安倍晴明”がアニメや小説の題材にされたこともあり、参拝者には若い人の姿も目立つ。晴明堂が立つ高台は「安倍晴明 天文観測の地」とされ、現在も広々とした空が見渡せる場所となっている。
快慶が手がけた5体すべてが国宝の「渡海文殊群像」

国宝である本尊の「騎獅(きし)文殊菩薩像」は、鎌倉時代の仏師・快慶(かいけい)が手がけた。右手に「降魔(ごうま)の利剣」という剣を持ち、左手には慈悲・慈愛を象徴する蓮華を持つ。善財童子や、優填王(うでんのう)など4人の脇侍(きょうじ)を従えた「渡海文殊群像」(写真)は、文殊菩薩が雲海を渡って魔を祓い、智慧を授ける旅へ出かける姿を表現したもの。中央で獅子に乗る本尊の高さは約7m。通常は見上げるような高さだが、2025年5月末までの「特別参拝」では、獅子から降りた姿を見学できる(冒頭写真)。文殊菩薩と同じ目線で手を合わせられるのは約15年ぶりで、今回は免震工事のための特別な措置という。工事終了後は通常の配置に戻るため、今回の特別参拝は文殊菩薩の均整のとれた美しさ、華やかな装飾などを間近で拝観できる貴重な機会となっている。
築造当時のままに保存された東西の古墳に注目

同院でもうひとつ注目したいのが、境内にある「西古墳(文殊院西古墳)」と「東古墳(文殊院東古墳)」と呼ばれるふたつの古墳だ。西古墳は明日香の「石舞台古墳」、「キトラ古墳」などと並び、国の指定史跡のなかでもとくに重要とされる「特別史跡」に指定されている。玄室の内部は良質な花崗岩を加工して左右対称に石組みされ、天井は大きさ15㎡もの巨大な一枚の石だ。中央部はアーチ状に削られており、当時の技術の高さがうかがえる。安倍倉梯麻呂の墓と伝えられており、645(大化元)年の築造当時のまま保存された内部を自由に見学できる(写真)。西古墳から50mほど東にある東古墳も、飛鳥時代の築造とされる奈良県指定史跡だ。花崗岩の巨石を使い、玄室は自然石、羨道(えんどう・玄室と外部を結ぶ通路)は切石と使い分けている。こちらも安倍一族の墳墓の可能性があるといわれ、現在は外からのみ見学できる。
魔除け・方位災難除けを祈願する「七まいり」


本堂の南側、文殊池のなかに立つ六角形の「金閣浮御(うきみ)堂」(写真)には、開運弁財天(大和七福神)(写真)や安倍仲麻呂、安倍晴明の像や軸など、陰陽道に関する宝物のほか、壁面には秘仏の十二天御尊軸(室町時代)が祭られている。
ここは「七まいり」という魔除け・方位災難除けを祈願する修行場でもある。古来、人の一生には七つの思いがけない災難があるといわれ、七まいりでは、そうした七難に遭わないように、堂の回廊を「おさめ札」を納めながら七回まわり、堂内に参拝して福をいただく。
秋のコスモスや紅葉の美しさはもちちん、季節ごとに折々の花に彩られる境内。創建以来1300年以上続く祈りの空間で、やすらかなひとときを過ごしてはいかがだろうか。
- 住所 奈良県桜井市阿部645
- 電話番号 0744-43-0002
- 営業時間 9:00AM~5:00PM
- 休み 無休
- 料金 大人 本堂参拝700円(参拝記念品付)、金閣浮御堂参拝700円(七まいりおさめ札・御守り付)、本堂・金閣浮御堂共通参拝1,200円 ※現金のみ(クレジットカード不可)
- 公式サイト https://www.abemonjuin.or.jp/


