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『源氏物語』誕生秘話 ~紫式部の石山寺詣

旅行

2024/02/21

『J-B Style2024年春号』では、今年注目を集める『源氏物語』とその作者・紫式部ゆかりの地をご紹介しています。本誌特集では京都が旅の舞台ですが、実は彼女が『源氏物語』を執筆するきっかけとなった場所は隣の滋賀県でした。物語誕生の背景を少しご紹介します。

ライター
取材・文/薄雲鈴代  写真/堀出恒夫、ウエスト・パブリッシング
エリア
滋賀県

紫式部が『源氏物語』の着想を得たのは、滋賀県大津市の「石山寺(いしやまでら)」といわれている。石山寺は、平安時代の女流作家たちが参籠したところ。紫式部もそのひとりで、観音菩薩に祈念して『源氏物語』を起筆したと伝わっている(冒頭写真)。

西国三十三所で知られる近江路の名刹

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石山寺(写真)は、琵琶湖から流れ出る瀬田川西岸に位置する真言宗の古刹である。747(天平19)年、聖武(しょうむ)天皇の勅願によって、奈良の良弁(ろうべん)僧正が開基したと伝わり、平安時代には清水寺(京都)、長谷寺(奈良)と並んで三観音と称された。本尊の二臂(にひ)如意輪観世音菩薩は高さ一丈六尺(約5.3m)の揺るぎない存在感だが、その姿は33年に一度しか拝めない、日本で唯一の勅封秘仏(ちょくふうひぶつ=天皇の命令によって封印された仏様のこと)。安産・福徳・縁結び・厄除けの霊験あらたかな観音様である。

石山寺で中秋の名月を眺めて『源氏物語』を起筆

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極楽浄土への思いが強かった平安貴族たちの間で、女人は成仏できない、救われないと考えられていた。唯一、その悩み多き女性たちを救ってくれたのが、現世利益の観音様であった。宮廷の女性たちは、石山寺に参籠して読経しながら夜を明かした。紫式部だけでなく、清少納言や和泉式部、藤原道綱の母、菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)など、名だたる女流作家たちも盛んに石山寺に詣でている。

1004(寛弘元)年、紫式部は新しい物語の着想を得るために、石山寺に7日間参籠している(写真はそのときの様子をイメージして造られた銅像)。式部が籠った部屋が「源氏の間」(写真)として、いまも残されている。ちょうど中秋の名月が美しい夜のこと。降るように物語の情景が思い浮かび、式部は傍らにあった大般若経の裏に、物語を書き留めたという。それが、須磨に流された貴人が、十五夜の月を見て都を回想する場面となる。『源氏物語』第12帖の「須磨」の巻の一場面である。ここから壮大な長編小説が執筆されるのだが、物語のなかでも石山の観音様は願いがかなう験(しるし)として再々登場する。
後世、関白近衛政家(このえまさいえ)が選定したと伝わる近江八景のひとつに「石山の秋月」が挙げられるのも、紫式部と月の縁があってのことである。

紫式部を慕い、江戸時代に松尾芭蕉もたずねた

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伽藍山のふもとに位置する石山寺は、その寺名のとおり奇岩硅灰石(きがんけいかいせき)の岩盤の上に堂宇が立つ(写真)。本堂は滋賀県に現存する最古の木造建築で、「源氏の間」もその一角に見える。江戸時代には松尾芭蕉も詣でており、「石山の石にたばしるあられかな」と詠んでいる。まさに、境内に露出している巨大な奇岩に霰(あられ)が音を立てて爆(は)ぜる瞬間が句に捻(ひね)られている。

境内には3つの梅園があり、早春、紅白梅がかぐわしい。3月上旬にはカンザクラが梅とともに観賞でき、重ねてソメイヨシノ、シダレザクラ、サトザクラが参道に咲き誇る(写真)。4月も下旬になると樹齢200年ほどのキリシマツツジが参道を真紅に染める。フジ、シャクナゲ、ボタン、花菖蒲と絶え間なく花暦が続いてゆく。 今年は、寺内で『源氏物語』や紫式部に関する展示も多数予定されている。

文豪・島崎藤村にちなんだ甘味処「茶丈藤村」で

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文豪・島崎藤村も石山寺と縁があって、山内にある密蔵院に2ヵ月も寄宿していたという。若き日、女学校の教師であった藤村は、教え子との恋に悩み、教師を辞めて籠っていたのだ。

その藤村の逸話が店名になった和菓子店「茶丈藤村」(写真)が、石山寺参道沿いにある。看板銘菓の「たばしる」は、芭蕉が石山寺で詠んだ俳句をイメージしている。丹波大納言小豆を三日三晩ふっくらと煮あげて蜜を吸わせ、粒をそのまま餅で包んだ菓子。併設の茶房で飲み物と一緒に一服することもできる(770円、写真)。店で使用するもち米や野菜や茶葉など、地元滋賀県産にこだわり、体にいいものを追求している。

「石山寺」いしやまでら
    • 住所 滋賀県大津市石山寺1-1-1
    • 電話番号 077-537-0013
    • 参拝時間 8:00AM~4:00PM(最終受付)
    • 休み 無休
    • 料金 大人600円 ※現金のみ
    • 公式サイト https://www.ishiyamadera.or.jp/

 

「茶丈藤村」さじょうとうそん

  • 住所 滋賀県大津市石山寺1-3-22
  • 電話番号 077-533-3900
  • 参拝時間 10:00AM~4:15PML.O.(土・日・祝 9:00AM5:00PML.O.)
  • 休み 火曜
  • 公式サイト https://www.sajo-towson.jp/

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