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「SLパレオエクスプレス」で春の花巡り

旅行

2025/03/14

秩父鉄道の「SLパレオエクスプレス」は都心から最も近くを走る蒸気機関車として有名。春になると沿線では菜の花や桜が満開になり、車窓には風光明媚な情景が流れる。関東有数のパワースポット「三峯神社」など、みどころも満載な春爛漫の秩父路へ出かけよう。

ライター
取材・文/山内貴範 写真/藤田修平、秩父鉄道
エリア
埼玉県

車窓に広がる絶景と 名物の駅弁を堪能

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「SLパレオエクスプレス」は、秩父鉄道の熊谷駅を出発し、景勝地の長瀞や秩父の市街地などを経由して、終点三峰口(みつみねぐち)駅までを約2時間40分で結んでいる。熊谷駅のホームに向かうと、SLの周りは黒山の人だかりだった。1944(昭和19)年に製造された黒光りする運転室では、機関助手が石炭をくべながら、出発の準備を進めている(写真)。

SLが牽引するレトロな客車の座席はボックスシートが主体。昭和の時代にタイムスリップしたような雰囲気を感じる(写真)。 ボーッと勢いよく汽笛を鳴らし、SLは秩父方面に向かって走り出した。車内アナウンスは秩父出身の落語家・林家たい平師匠。住宅街を過ぎると車窓にはのどかな田園風景が広がり、寄居(よりい)駅を発つと、左に荒川を望みながら山間部を進んでいく。長瀞駅に近づくころには、春の陽気に包まれ、約1500本の桜が咲き誇る風景が車窓いっぱいに広がる(冒頭写真)。満開の桜を眺めていると、あたかも桜のトンネルのなかを走っているようだ。

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正午前、おなかが空いたころに、長瀞駅で「SL弁当」の積み込みがある。乗車直近の平日正午までの予約制で購入が可能なので、沿線や地元の食材が詰まった弁当を堪能しては。

上長瀞駅を通過すると、程なくして秩父鉄道最大の絶景ポイントにさしかかる。1914(大正3)年に架けられた荒川橋梁だ(写真)。橋の上ではSLが減速して走行するので、荒川の清流と秩父の自然を一望できる。秩父駅を過ぎると、約30分で終点の三峰口駅に到着した。

ご利益を授かりに パワースポットへ

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秩父の二大パワースポットと称されるのが「三峯(みつみね)神社」(写真)と「秩父神社」である。古代から篤い信仰を集めてきた神社に参拝し、ご利益を授かりたい。

まずは、三峰口駅前からバスで三峯神社へ向かう。1世紀ごろ、日本武尊(やまとたけるのみこと)が創建したという伝説をもつ国内有数の古社であり、境内の中心は三峯山の中腹、標高約1100メートルの地点にある。バスで約55分、終点下車。参道を上っていくと見えてくるのが、3基の鳥居を組み合わせた独特の造りの三ツ鳥居(写真)。杉並木の参道を進んだ先には、赤、青、金の極彩色の彫刻で飾られた拝殿と本殿が立つ。拝殿は江戸時代中期、本殿は江戸時代初期に建立された建築で、自然と調和した社殿は息を吞む美しさだった。

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ここまで山道を歩いて疲れてきたので、「三峯神社小教院」のすてきな空間でひと休みしよう。寺院を思わせる造りの喫茶スペースは、神仏習合の時代の1739(元文4)年に建てられた本堂を改修して使用。1日20個限定、甘さ控えめの「コーヒーゼリー」が人気(写真)。三峯山の岩清水を使って淹れたコーヒーを味わいながら、三峯山の悠久の歴史に思いを馳せた。

再び、秩父鉄道で秩父駅へ戻り、駅から徒歩3分ほどの場所にある「秩父神社」へ(写真)。ここは、秩父地方の総鎮守であり、毎年12月に行われる「秩父夜祭」で広く知られている。約2100年前の創建と伝えられ、境内には徳川家康が寄進した江戸時代初期の社殿が立っている。色鮮やかな社殿は日光東照宮の“眠り猫”の作者・左甚五郎(ひだりじんごろう)の作とされる美しい彫刻で飾られ、美術館のような華やかさがあった。

秩父は美味なる 食材の宝庫

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今回の旅の宿に選んだのは、秩父駅から車で約20分、市街地から離れて、ゆったり過ごすことができると評判の「御宿(おやど) 竹取物語」。現存する日本最古の物語の名を冠した宿は、竹藪が茂り、木々の緑に囲まれた静かな場所に立っていた。 廊下は畳敷きで、客室のインテリアは和モダンを基調としたデザインが多い。館内には岩風呂(写真)のほか、天候がよければ満天の星を眺めながら楽しめる露天風呂もある。

夕食は地元の農家が栽培した野菜を使った料理や、宿の主人が作る名物の「燻製」と「くるみ豆腐」が絶品だ(写真*)。夕食の後は、館内のバーカウンターで旅を振り返りながらグラスを傾けるのも一興だろう。

* 左下の緑色の小鉢が「燻製」、左上の竹筒に入っているのが「くるみ豆腐」

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翌日も秩父の市街地を巡った。秩父神社の表参道に当たる番場通りの一角にある、秩父ならではの美食を堪能できるレストラン「クチーナ・サルヴェ」に立ち寄る(写真)。秩父出身のオーナーシェフ・坪内 浩氏は自ら150種類以上の野菜を育て、収穫して料理に用いる。「秩父は寒暖差がある特有の気候なので、いろいろな野菜が育ちやすいんです」と、坪内氏。野菜本来の素材がもつ甘みや食感を存分に引き出した料理を味わった(写真)。

山のふもとに広がる 芝桜の絶景を見に

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自然豊かな秩父は、春を迎えると至るところで花々が満開になる。「羊山公園」はこの時期に立ち寄りたい名所のひとつ。一面に芝桜が植えられた「芝桜の丘」は、4月中旬から5月上旬ごろにはピンク色に染まり、その光景は花のじゅうたんという表現がふさわしい(写真)。園内にある見晴しの丘の展望台からは、秩父の街並みも一望できる。

最後に、秩父の旅のおみやげを買うために訪れたのが、「道の駅 ちちぶ」(写真)。秩父駅から徒歩約5分でアクセスでき、地元名産の日本酒から秩父箸などの工芸品まで、充実した品揃えが魅力だ。今回は、地元の銘酒を購入して旅を振り返りながら帰途についた。

※本記事は、『J-B Style25春号』(P16~23)を転載しています。

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