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渋沢栄一との縁が生んだ、秩父鉄道に残る鉄道遺産

旅行

2025/02/20

『J-B Style2025年春号』では、埼玉県秩父市の観光列車「SLパレオエクスプレスで春の花巡り」を特集していますが、秩父鉄道の発展に深谷市の偉人・渋沢栄一が一役買っていたことをご存じでしょうか。今回は、秩父鉄道と渋沢栄一の縁と、沿線に残る鉄道遺産をご紹介します。

ライター
取材・文/山内貴範 写真/藤田修平、秩父鉄道
エリア
埼玉県

秩父鉄道の前身、上武(じょうぶ)鉄道が開業したのは1901(明治34)年のこと。まずは熊谷駅~寄居(よりい)駅間を列車が走り始め、その後、東西へ着実に線路を延ばし、1930(昭和5)年には羽生(はにゅう)駅~三峰口(みつみねぐち)駅間が全線開業している。この秩父鉄道の延伸は、数々の鉄道会社の設立や支援に携わった渋沢栄一の協力があって実現したものだった。現在も沿線には、渋沢と縁の深い、秩父鉄道の歴史を物語る鉄道施設が残っている。

渋沢栄一ゆかりの洋風レトロな長瀞駅

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新紙幣の肖像にも選ばれた埼玉県深谷市出身の実業家・渋沢栄一は、生涯にわたって500社もの企業の立ち上げに関わったといわれている。とくに著名な業績は第一国立銀行などの銀行の設立だが、渋沢は国を豊かにするためには鉄道網の整備こそが不可欠であると考え、日本で最初の民営鉄道会社である日本鉄道など、数々の鉄道会社の設立にも関わった。

渋沢のもとには、資金援助の相談に訪れる人が絶えなかったが、そのなかのひとりに、秩父鉄道の社長だった柿原定吉(かきはらさだきち)の姿もあった。秩父鉄道は1901(明治34)年に熊谷駅から寄居駅まで開業し、西へと延伸を計画したものの、日露戦争後の不況の影響で工事が中断する危機に陥ったのである。柿原の相談を渋沢は快諾し、資金を援助。工事が続行されることになった。1911(明治44)年に宝登山(ほどさん)駅(現在の長瀞駅)まで開通した際は、渋沢が式典にも出席して祝辞を述べている。長瀞駅の駅舎(写真)は、開業当時の洋風駅舎がそのまま残っており、渋沢ゆかりの建物といえる。

荒川を跨ぐ、全長約167mの荒川橋梁と雄大な景色

渋沢の援助で長瀞駅まで延伸した秩父鉄道は、さらに西へと線路を延ばしていった。長瀞駅を過ぎ、上長瀞駅~親鼻(おやはな)駅間には秩父鉄道最大の絶景ポイントがある。全長約167m、高さ約20mの荒川橋梁だ(写真)。荒川を跨ぎ、1914(大正3)年に完成した秩父鉄道を代表する名橋梁である。4段の煉瓦積みで建設された橋梁は、当時の建設技術の粋を結集したもの。

「SLパレオエクスプレス」の車窓から眺める荒川と、秩父の山々の雄大な景色は格別である(写真)。煉瓦といえば、渋沢が故郷の深谷市に設立した日本煉瓦製造の製品が有名だ。確証はないものの、荒川橋梁にも日本煉瓦製造の煉瓦が用いられた可能性が高いと考えられている。

終着駅にふさわしい堂々とした木造駅舎の三峰口駅

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秩父鉄道が全線開業したのは、1930(昭和5)年のことである。終着駅の三峰口駅には、今年で築95年になる開業当時の駅舎がそのまま残っている(写真)。SLパレオエクスプレスを下車した後はそのままバスに乗って三峯神社に向かってしまう人が多いが、旅の予定に余裕があれば、ぜひ駅とその周辺を散策してみたい。木造駅舎はひと昔前なら日本中で見られたものだが、その多くは建て替えが進んでいまや貴重な存在になった。構内で営業するそば店で腹ごしらえをして、駅のすぐ近くにある「SL転車台公園」へと足を延ばしてみよう。

SLがダイナミックに180度回転する転車台

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現在、我々が利用する電車は運転台が前後についている。ところがSL(蒸気機関車=Steam Locomotive)は、蒸気を動力とする機関車が、動力をもたない客車を牽引して走る。そのため、終着駅で方向転換を図り、牽引する機関車を先頭に付け替える必要がある。そこで終着駅に設けられたのが転車台である。転車台のターンテーブルに機関車が乗り、ぐるりと180度回って方向転換ができる仕組みになっている。先述のSL転車台公園では、パレオエクスプレスを牽引した機関車がターンテーブルで回転する光景を間近で見ることができる。

秩父鉄道では、明治から昭和にかけて整備された鉄道施設がさまざまなところで現役として活躍している。まさに、“生きた鉄道博物館”ともいえる秩父鉄道。春の花巡りのついでに、鉄道遺産巡りもしてみてはいかがだろう。

 

(*物件紹介)
「秩父鉄道 SLパレオエクスプレス」ちちぶてつどう えすえるぱれおえくすぷれす
    • 住所 埼玉県熊谷市曙町1-1(秩父鉄道)
    • 電話番号 048-580-6363(秩父鉄道旅客案内係)
    • 営業 熊谷~三峰口(4/19(土)~12/7(日)の土・日・祝を中心に1日1往復)
    • 料金 熊谷~三峰口2,150円(全席指定/乗車券1,050円+SL指定席券1,100円)。 ※駅窓口は現金のみ
    • 公式サイト https://www.chichibu-railway.co.jp/slpaleo/

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