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兵庫県・淡路島
“五感で愉しむ”瀬戸内アートの島

旅行

2023/10/13

“瀬戸内アートの島”といえば香川県・直島(なおしま)が有名だが、近年は京阪神から近いリゾートとして淡路島のアートが充実してきていると評判だ。豊かな自然をキャンバスに、感性を刺激する建築群やアート作品……。そして、心が解き放たれる宿や美食を求めて2泊3日の旅に出かけた。

ライター
取材・文/土井ゆう子 写真/秋田大輔
エリア
兵庫県

安藤忠雄氏が手がけた “自然と共生する”舞台

神戸側から明石海峡大橋を渡り、淡路島の北部東側にある、「淡路夢舞台」へ。建築家・安藤忠雄氏による建築群が、壮大な景観を創り出すエリアだ。

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「ここはかつて大規模な土砂採掘が行われた場所でした。土が露出した土地に木々を植え、緑の大地を再生。そこに庭園や野外劇場、国際会議場やホテルを建設し、自然と人が共生する舞台を創りあげたのです」。そう教えてくれたのは、スタッフの山田友子(ともこ)さん。

斜面に構成された建造物や通路は、迷路のようで、散策すると次から次へと新たな視界が開ける。圧巻なのは、100面の花壇が階段状に並ぶ「百段苑」(写真)。高台からは、緑のなかに広がる建築群と海が見渡せる。 天井高が約20メートルあるダイナミックな温室「あわじグリーン館」もまた、安藤建築のひとつ。“緑の彫刻”と呼ばれる見事なサボテン類や熱帯植物は、まさに生きるアートだ。

北部エリアで過ごす 建築ざんまいの一日

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ランチは「農家レストラン 陽(はる)・燦燦(さんさん)」(写真)で、と決めていた。紙管を利用した建築や災害支援活動で知られる建築家・坂 茂(ばん しげる)氏が設計した建物で、淡路島のとれたて野菜が主役の料理(写真)を食べられるからだ。

北部の内陸へ向かうと、小麦や玉ねぎが栽培されている畑のなかに雄壮な茅葺(かやぶき)屋根の建物が姿を現した。一見、伝統的な古民家だが、内部の柱や梁(はり)に、再生クラフト紙の紙管を使用している。茅葺屋根は神戸市北部で活動する職人チームによるもの。地産地消の食事とともに、建築や職人技を堪能できる。 ランチの後は北部の西海岸を散策。日本の古酒だけを集めて販売するという珍しい店「青海波(せいかいは) 古酒の舎(や)」が面白い。 宿泊は、淡路夢舞台内の「グランドニッコー淡路」にチェックイン。高層階の客室のバルコニーから建築群を眺めたり、館内の「海の教会」を見学したりして、再び安藤建築を体感した。

瀬戸内海が眼前に広がる 西海岸でゆったりと……

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2日目は、新しい施設が続々と誕生している西海岸を探訪。まずは、2023年1月にオープンした「土のミュージアム SHIDO(シド)」を訪ねた。

「ここは淡路島の土を使い、伝統的な左官の技術で塗りあげた空間です。さまざまな表情を見せる壁は、国内外で活躍する左官職人・アーティストの久住有生(くすみなおき)氏によるものです」と、館長の浜岡淳二氏。 午後3時には全16室がオーシャンビューのブティックホテル「KAMOME SLOW HOTEL(カモメ スロウ ホテル)」(写真)に到着した。海を望むテラスやレコードが聴ける部屋でのんびりと過ごす。ゲストルームはもちろん、隅々までデザインされた空間が心地よい。 夕食はホテルから徒歩約3分のイタリアンレストラン「GARB COSTA ORANGE(ガーブ コスタ オレンジ)」へ。すぐ近くにバー「GARB COSTA ORANGE LONG TERRACE(ガーブ コスタ オレンジ ロング テラス)」(写真)もあり、食事と夕景を満喫できた。

アートスポットを次々と 目指して島を縦断する

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旅の最終日は、一気に南へと車を走らせる。目的地は「うずの丘 大鳴門橋記念館」(写真)。淡路島西南部の丘の上にあるこの施設からは、四国方面を見渡すパノラマが広がる。目当ては大鳴門橋と鳴門海峡をバックに、ドーンと設置された巨大なタマネギのオブジェ「おっ玉葱」(冒頭写真)。その大きさは直径約2.5メートル、高さ約2.8メートル、重さ約250キログラム。淡路島名産のタマネギへの愛の大きさを表したものだというのだからユニークだ。

鳴門海峡を望む風景を堪能した後は、帰路に就きながら安藤氏による寺院建築「本福寺(ほんぷくじ) 水御堂(みずみどう)」(写真)へと向かう。敷地内を歩くと、カーブを描くコンクリート壁が現れる。内側には蓮池が広がり、下部に本堂という構造だ。蓮池の間にある階段を下りるにつれ、自然と厳かな気持ちに。朱色の格子の内部には、淡路市指定重要文化財の本尊薬師如来が安置されている。

いやしのアートと温泉で 淡路の旅を締めくくる

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旅の終盤に訪ねたいアートスポットは、地元出身の洋画家、大石可久也(かくや)・鉦子(しょうこ)夫妻の作品を展示している「アート山大石可久也美術館」(写真)だ。道路沿いに掲げられた小さな看板を目印に、急斜面の道を進むと、雑木林の間から白い建物が現れ、庭先にはさまざまなオブジェが見える。

館内展示の絵画や創作現場のコーナーを鑑賞した後は、大阪湾が眼下に広がる絶景と、雑木林に点在する作品群を見たい。島の自然と調和するいやしの芸術空間で、時が経つのを忘れて過ごした。 旅の最後に立ち寄ったのは、温泉施設「アクアイグニス淡路島」。幅が約45メートルもある「水着温泉 伊弉冉(いざなみ)の湯湯(ゆゆ)」(写真)は、湯船と海が繋がっているように見えるインフィニティ風呂で、そのたたずまいが美しい。 湯船にぷかりと浮かびながら、さまざまな建築やアートスポットを巡った2泊3日の旅をゆっくりと反芻した。

※本記事は、『J-B Style2023年秋号』(P20~27)を転載しています。

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