J-B StyleおすすめPick Up

青森県・白神山地
世界遺産登録30年目の神秘の森を歩く

旅行

2023/06/12

濃い緑の原生的なブナ林が広がる白神山地は、古来、多種多様な動植物の営みを広く育んできた。
今年は世界自然遺産登録から30 年。夏の木漏れ日のなかを歩く、心地よい散策に加えて、山中だけに留まらない豊かな白神の恵みを堪能しに行こう。

ライター
取材・文/山内史子 写真/松隈直樹
エリア
青森県 、 秋田県

ブナ林の特性を知って歩く

ダミーイメージ

ダミーイメージ

白神山地は青森県と秋田県にまたがる、約13万ヘクタールの山岳地帯の総称。世界最大級の原生的なブナ林と太古から紡がれてきた独自の生態系が評価され、1993年に屋久島(鹿児島県)とともに、日本初のユネスコ世界自然遺産となった。今年は世界遺産登録から30年を迎える。

登録エリアの約7割を占める青森県側には、初心者も自然散策を楽しめるコースが複数整備されているのが魅力だ。

旅の起点となる弘前市内から車で約40分。旅のはじめに西目屋(にしめや)村の「白神山地ビジターセンター」(写真)に立ち寄りたい。ブナ林の特性やそこに棲む動植物に関する丁寧な展示の数々に、山への好奇心が刺激されるだろう。

いちばん気軽に歩けるコースは、「世界遺産の径(みち) ブナ林散策道」(写真)。緑が空を覆う道での深呼吸は心身がリフレッシュし、風が吹けば肉厚なブナの葉が深みのある音を奏でる。

白神の森の神秘と恵みにふれる散策

ダミーイメージ

ダミーイメージ

ブナ林散策道を歩いていると、道がふかふかしていて歩きやすいことに気付くだろう。

「厚いブナの葉は腐食しにくく、層を成してクッションのような効果を生みます。その落ち葉の層が雨や雪解け水を蓄えて、豊かな養分を含む腐葉土となって植物を育み、木々の実りは動物たちの命の糧になるのです」とガイドが教えてくれる。

腐葉土を経た水はやがて川に流れ、周囲の大地をも潤す。ブナ林散策道とも繋がる「暗門(あんもん)渓谷ルート」の景色をすがすがしく彩る暗門川もそのひとつ。3つの「暗門の滝」(写真)があり、水の流れ落ちるダイナミックな景色と、水しぶきが陽光に煌めく心洗われる光景が待っている。

太古から続く森の変遷にふれるなら樹齢約400年のマザーツリーへと続く「ブナ巨木ふれあいの径」へ。高さ30メートル程の巨木は白神山地のシンボル的な存在だったが、2018年の台風により上部が大きく折れる被害に見舞われた。一見、切なさを覚える姿だが、「天を覆う枝葉がなくなったことで周囲の地面に光が当たり、ブナの幼木や多数の新たな植物の命が芽吹いているんです」と、ガイドは話す。自然の厳しさを受けとめながら再生を重ねてきた、森の物語に感慨を覚える。

白神山地は山菜やキノコも豊富にとれ、地元の人にとっては食物の宝庫でもある。地元の特産品が揃う西目屋村の「道の駅 津軽白神」(写真)の農産物直売所では、初夏や秋にその山の恵みを購入できる。屋上の巣箱から採取されるハチミツや周辺で栽培されるリンゴのジュースなど、白神の多彩な恵みを持ち帰りたい。

絶景から温泉、美味まで西海岸で白神を満喫

ダミーイメージ

ダミーイメージ

白神を巡る旅の合間に、ゆっくりとくつろげるのが深浦町(ふかうらまち)の温泉宿「不老ふ死温泉」だ。西目屋村からは車で約2時間かかるが、日本海に面した「海辺の露天風呂」では温泉に浸かりながらに雄大な眺めを楽しめる。天気に恵まれれば、夕景も圧巻。山の養分を含んだ水は日本海へと流れ、深浦町をはじめ青森県西海岸エリアの漁場を豊かに育んでいる。地元で揚がった新鮮な海の幸もまた白神山地の賜物だと思えば、マグロやヒラメの刺身、生きたアワビの酒蒸しなどの味わいはより深まる。

ダミーイメージ

ダミーイメージ

翌朝は宿から車で25分程の「十二湖散策コース」に向かい、さらなる白神山地散策を。ブナ林を進む約1時間半のコースは気楽に歩けるうえ、多数の美しい湖沼が点在する。なかでも見逃せないのは、青色に煌めく澄んだ水がサファイアを思わせる「青池」だ。日が陰れば趣のあるブルーグレーになるなど、刻一刻と変わるその様子に時間を忘れて見入ることだろう。

旅の終わりには、深浦町の東に位置する鰺ヶ沢(あじがさわ)町へ。軟らかな湧き水「白神山地の水」で淹れるコーヒーが味わえる店「CAFÉ 水とコーヒー」でひと息つきたい。自家焙煎の豆の個性を引き立てる白神の水で淹れた「ブレンド」は、やさしい味わいのなかに苦味と酸味を程よく感じるおいしさだ。シャキシャキとしたリンゴの食感が魅力の「アップルパイ」の甘みも引き立つ。帰りにコーヒーと水を購入すれば、旅を振り返る時間も豊かな香りで彩られるだろう。

TOP